市川の
大きな独り言、小さな叫び



[2019.3.25 M]

4月から働き始める君達へ(2)

 2009年3月の卒業祝賀会で私が行ったスピーチをもとに話をしたい。

 長時間勤務や過労死が問題になっているが、これは今にはじまったことではない。サラリーマンと言うもの、残業は当たり前、時には休日出勤もある、と言ったシステムの中で働くことが、当然のように日本社会全体で受け入れられている。 (補1)

 長い職業人生の中、無茶苦茶と思える超過勤務をすることは誰しも(必ずと言って良いほど)何度かはあるだろう。逆の見方をすれば、そのような経験をすることなく定年を迎えたとすると、専門職としては少々寂しい一生だったと言えないこともない。

 しかし、もしその長時間労働が長期間続く、あるいは常態化しているとすると、間違いなく何かがおかしい。仕事の量に対して人間が少なすぎる、管理する側が過大な仕事量を求めている、管理者に管理能力が欠けている、などがまず思い浮かぶ。このような場合、働く側はどうすれば良いだろうか。

 いきなり結論になるが、『サラリーマンは体を壊したら負け』なのである。(仕事が原因で)病気になる、怪我をする、ことまでして成果を挙げても、決して報われない。最終的には必ず当人が損をするように世の中は出来ている。サラリーマンは使えなくなったらそこでお払い箱となる。要するに、職業人としての君達、私達の代りは幾らでもいるのである。仕事の場において『余人を以って代え難い』は有り得ないことを肝に銘じておく必要がある。その組織でいかに重要な人材であろうとも、居なくなれば、必ずどこからか代わりが現れる。仕事で体を壊していながら『自分が居なければ』などとは決して思ってはいけない。 (補2)

 もう一つ忘れてはならないことがある。職業人としての君達の代りはいくらでもいるが、家族・配偶者・親としての君達の代りはこの世界に一人も居ないのである。

 だから、私は卒業した昔の学生に会った時やメールを書いた際は、いつも最後には必ず『体には気をつけろ』と、つい無意識のうちに言ってしまう。


補1
 海外と比較したときの日本での生活の便利さ・快適さ・コストパフォーマンスの良さ、さらに、おそらくその結果として、近年の急増する訪日外国人観光客の人気、を支えているのはこの無理な労働システムかもしれない。

補2
 アインシュタインは歴史上最高の天才科学者であると多くの人が評価する。 特殊相対論はアインシュタインがいなくとも時を経ずして誰か他の科学者がそこにたどり着いただろうが、一般相対論は全く群を抜いたアインシュタインの独創であり彼以外の誰も成し得なかった、とされて来た。しかし、実はアインシュタインが何もしなくとも、実際の彼の発表から5年程度の間に他の研究者が一般相対論に至ったであろう事が以下の文献で紹介されている。

John Gribbin, "Pay attention, Albert Einstein!," NewScientist, Issue 1854, 2 January 1993, pp.28-31.

 アインシュタインでさえ、『余人を以って代え難し』ではなかったと言うことである。